映画「竜とそばかすの姫」感想


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 細田守監督の最新作、竜とそばかすの姫を観てきました。「時をかける少女」や「サマーウォーズ」で知られ、私にとっては好きなアニメ映画監督の一人である事である事は間違いありません。ただ同時に前作の「未来のミライ」では癖が強すぎてちょっと残念だなと思ったり、ポスト宮崎駿枠にしたいんだろうなーというテレビ局の意向を宣伝の多さからも感じる監督でもあります。

 

あらすじ

今作は、過去の大ヒット作である「サマーウォーズ」から十年を経て登場する同じく仮想世界を舞台にしたお話。高知の田舎に住むどちらかというと地味めな女子高生すずが仮想世界「U」において有名な歌姫となったところからお話が始まります。他の家の子供を救う為に命を落とした母親に対するわだかまりからリアルで歌うことはできない彼女ですが、「U」という仮想世界の上でBelleというアバターを被ることで「もうひとりの自分」として歌うという事で出来る事で歌姫としての才能に目覚めていきます。

 

そして彼女は自身のライブの最中に出会った竜と呼ばれる「道場破り」を常とし忌み嫌われているアバターに出会い、惹かれていく。しかしお尋ね者として追われる竜は追われる存在であり、その正体を暴こうとする自警集団にBelle自身も追われる形となっていいく中で、竜の正体を知る。

 

感想

良かった点

まず映像表現。これは文句なしに素晴らしい作品だった。姫と醜き嫌われ者「竜」という関係性は「美女と野獣」を連想されられるが、まさに仮想世界という世界の上で細田守版「美女と野獣」を観ている感覚である。そういう意味では少しディズニーっぽいという感想もあるのだが、細田守の世界観がしっかり描かれた上でモチーフとして似ているという事であり、逆に多様な客層に受ける舞台装置としての役割と細田守サマーウォーズ的仮想世界が十年経ってここまで伸びるのかーと思わせてくれる世界観の演出で申し分なく文句なしに本作で評価したい部分である。

 

また歌を多用する事でミュージカル風に仕上げている部分についても、世界観を構成する要素として非常に上手く使われており、近年の新海誠風のアップテンポの曲でコマ早に回す路線に追従しなかった事も明確に両者の路線が違うものである事を示せていてよかったと思う。

 

気になった点

逆に何が心残りかと問われたらストーリーであろう。とはいえ、前作の未来のミライの様になんだかよくわからないけど、気がついたら作品が終わっていた。では無いので前作よりは格段に良いと思う。ただその一方でサマーウォーズの様な納得のエンドというにはまだまだ程遠かったと言わざる負えない。「おおかみこどもの雨と雪」以降の細田作品に見られる社会問題の風刺描写や過去作の要素を盛り込んだ集大成作品感、そして勿論作者が織り込みたい要素やメッセージ・テーマ性。これらが入れたい要素が肥大化し過ぎていて重たく感じてしまう。

 

それらの要素を織り込もうとした結果なのかは分からないが、結果としてキャラの行動が感情的・合理性的に自然では無くなっていく。例えば、

なんで自分のライブに乱入する様な荒らしをしている人に惹かれていくの?

DVの緊急性で高知から駆けつけるのになんで女子高生一人?というか警察行こうよ

みたいなところである。自警集団「ジャスティス」とかも立ち位置がよくわからないまま登場してくるのでわかりにくく、しばらく考えて2chとかで人の住所特定する特定班みたいなのをイメージしているのかなと気がついたり、自分の考察が欠如している部分もあるのだろうが、わかりにくくて全体としてストーリーが上手くないよね。という感想になってしまうのは仕方がないといえるレベルだと思う。

 

フィクションだからで片付ける事はSFにおいてはある程度必要であるが、キャラの行動とは視聴者にとって物語を追う羅針盤であり共感のベースとなる要素なので、そこをすっ飛ばしてほしくないなというのは素直な本音である。その視点において立ち戻るとサマーウォーズの大家族ー仮想世界で、仮想世界の危機が現実世界の危機にフィードバックされてくるという構図だから明確に主観的に問題に立ち向かえる。対して本作は問題は言っては悪いが、他人の家族であり仮想空間の荒らしであってそんなの知らんがなとなってしまう人のほうが多いのでは無いだろうか?

 

 過去作と同じものが出てきても面白くは無い。それは間違いないのだが、現実社会と仮想世界(ネット社会)という構図は、今の時代の若者は現実に目の前にある世界として広がっている。だからこそ現実はこうじゃないでしょという違和感には敏感にならざるえないと思ってしまう。そういう意味で視聴者がストーリーの違和感をどう評価するかで作品の評価は変わる気がするので、それこそ日々ネットでSNSとかを使っていない層には結構良い評価されるかもなと感じました。