大手通信キャリアの経済圏の行方を考える
ここ数年のキャッシュレス決済推進の流れにおいて存在感を増しているのが、大手通信キャリア(ドコモ・au・ソフトバンク・楽天)による経済圏構築の動きである。
この流れは別に昨今の菅政権主導の携帯電話値下げに端を発したものではなく、スマートフォンの普及により旧来大手通信キャリアがiモードやおサイフケータイ等で得ていたビジネスをAppleやGoogleといったGAFAのスマートフォンのプラットフォーマーに奪われたことへの次の一手として自然なものである。世界におけるGAFAの力は絶大だが、世界中にローカライズしたリアルなビジネスを展開するには至っていないし、彼らはインターネットという枠からはみ出ることなく、膨大な利用データを用いた行動予測やデータ提供によるビジネスに徹するだろう。
大手通信キャリアの向かう方向はローカルなGAFA
そうした意味でキャリアが目指す方向性はローカルなGAFAといったところであろうか。携帯電話の契約・利用情報とそれに紐づく顧客ID・決済情報を使うことによってGAFAがカバーできないローカルでオフラインなサービスを含め経済圏でユーザーを囲い込む。元々ストックビジネスで全国民に生活上必須なインフラで毎月お金を引き落とせる導線を持っているビジネスは他にない。金融・電気やガスにも同様のことは言えるが、それらは規制の厳しい産業であり、異業種参入や経済圏を構築できるポテンシャルには薄いと思う。加えて通信という分野の強みはインターネット上における道路であるということである。政府の値下げ要請やNetflix等の抱き合わせプランの是非はともかく、現時点において通行料やどんな車を優遇するかということについてはかなり裁量権を持っているのは大きなアドバンテージである。
政府も通信料金の値下げ圧力こそかけているものの、その代償として経済圏の囲い込みについては認めていくつもりなのだろう。そうでなければ経済圏こそがビジネスの根幹である楽天の新規参入を認めるはずがないからである。その背景としてはGAFAに対抗できるプラットフォーマーとなりうるとしたら通信キャリアという認識が政府内部にもあるのだろう。NTTによるドコモ完全子会社化を認めたのもそうした背景があるのではないかと思う。
各社の経済圏の現状と展望
ドコモ経済圏
NTTによる完全子会社化という自体で正直先が一番読めない会社ではあるのだが、現在のdなんちゃらサービスの出来を見る限り経済圏の構築という意味ではあまり上手では無い様に思う。とはいえ決済ではiDやFelica・d払いを持ち、dなんちゃらサービスの数も相当なものであり、元国営で安定した顧客を抱えるドコモは自社のユーザーを囲い込むプラットフォーマーとしてはそれなりに力を持つので安定感を持って存在感があるだろうなという認識である。
au経済圏
経済圏という意味だと一番出遅れている印象がある。au Payも後発で全体として経済圏構築にかんして後塵を拝しているといっていいだろう。そのことは会社としても認識しているからこそ、アマゾンのPrime VideoやNetflixといった海外勢と組んでのサービス展開を進めているのは理解できる。ただそれは経済圏構築においてはあまり意味の無いことであり、中長期的な経済圏戦略としてはあまり上手くないのではという認識である。
ソフトバンク経済圏(ヤフー経済圏・LINE経済圏)
ソフトバンクと聞くとキャリアとしては3番手だし、あまりソフトバンクをイメージさせるサービスが無いのでぱっとしないが、昨年にヤフーを持つZホールディングスを子会社している。しかもそのZホールディングスはLINEとの経営統合を決めている。統合されるZホールディングスは韓国のNAVERとのJVで株は半数ずつであるが、取締役はソフトバンクの方が多く連結子会社となる予定である。スマートフォンにいれていない人はいないサービスであるLINEブランドを軸に様々なWEBサービスを展開してブランド統一を図っていくのでは無いかと思う。ただ決済・フィンテック周りにおいてはPayPayブランドを軸にしていきそうな気配(決済周りはNAVERに分け前なしでソフトバンクが貰っていく)でソフトバンク(通信サービス)・LINE(WEBサービス)・PayPay(決済サービス)といった3ブランドを軸とした経済圏としてそれなりに成長していくのではという気がしている。
楽天経済圏
経済圏といえば楽天と言われる企業であり、既存のサービスだけで経済圏としては王者としての風格がある。統一された名称とポイントを軸として展開は他キャリアも真似しているが、真似しきれていないというのが正直なところである。楽天に弱みがあるといえばそれは新規参入ゆえのアンテナの少なさによるつながりにくさ・ユーザー数の少なさによる資金力の低さといったところであろう。
大手通信キャリアの経済圏に今後について
先程も書いたが現時点の経済圏としての王者としては楽天である。ただ通信網の貧弱さはユーザーの移行にとっては大きなハードルで、ソフトバンクが参入して全国で他キャリアと同等になるまでに10年くらいかかったかなという認識で考えると経済圏構築でトップまで取れるかというとどうだろうというのが個人的な感覚だ。ただ急速なアンテナ設置と低価格な通信料金のセットでどこまでやれるかは気になるところある。ドコモやauは高齢者や企業向けユーザーを多く抱える両社は企業としては間違いなく盤石であるが、正直なところ経済圏構築のプラットフォーマーとしてはあまり上手でないため中途半端な位置にとどまりそうである。そういう意味で楽天経済圏と戦えるプラットフォーマーとなりそうなのは、ソフトバンク経済圏では無いかと思う。LINEとヤフー(PayPay)のタッグを組んだビジネスで楽天と経済圏の王者の地位を争うこととなるだろう。